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災害トイレの快適性を高める吸収体技術とSAPの活用方法

Date 2025.12.12

災害トイレの快適性を高める吸収体技術とSAPの活用方法のサムネイル

私たちは、高吸水性樹脂(SAP:Super Absorbent Polymer)などの機能性材料をシート化した製品の開発に取り組んでいるメーカーです。

災害時には水や電気が使えなくなり、普段通りのトイレが使えないという課題に直面することがあります。
避難所や車中泊、高層住宅など、さまざまな環境でトイレの確保や衛生管理が大きな課題となります。
排泄物の処理がうまくいかない場合、臭気や感染症リスクが高まり、健康面でも不安が残ります。
こうした課題に対して、機能性材料を配合した吸収体シートを活用することで、災害時のトイレ環境を快適かつ衛生的に保つことが期待されています。

この記事では、災害トイレを取り巻く現状や課題を整理し、現場で求められる特性について、実務担当者の視点でわかりやすくご紹介します。
防災備蓄や災害対策を検討されている自治体や企業の担当者にとって、技術情報や素材選定の参考になれば幸いです。

▼この記事の構成

1.災害時におけるトイレ問題と快適性の課題
 1-1.公的な視点から見た災害時トイレ問題と健康リスク
 1-2.現場で直面するトイレ課題の具体例
2.災害トイレの種類と共通する課題
 2-1.災害トイレの多様な形態
 2-2.段ボール型簡易トイレの特徴と課題
 2-3.既存トイレ活用型のメリットと制約
 2-4.仮設トイレの設置と運用課題
 2-5.マンホールトイレの特徴と課題
 2-6.共通する課題:衛生と臭気対策
3.災害トイレに求められる吸収体の条件
 3-1.吸収速度:排泄直後の処理性
 3-2.保持力:長時間の漏れ防止
 3-3.臭気対策:アンモニア臭の抑制
 3-4.廃棄性と安全性
 3-5.軽量性と保管性
4.SAP(高吸水性樹脂)の特徴とシート化のメリット
 4-1. SAPの基本特性:高い吸水力と保持力
 4-2.シート化による拡散性と処理性の向上
 4-3.軽量性と備蓄性のメリット
 4-4.凝固剤との違い:快適性への寄与
5.当社のSAPシートと製造プロセスの特徴
6.まとめ


1. 災害時のトイレ問題と社会的背景

1-1. 公的な視点から見た災害時トイレ問題と健康リスク

災害時の避難所や自宅では、トイレ環境の確保と衛生管理が住民の健康維持に直結する重要課題です。
内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(平成28年4月)では、
ライフラインの途絶による水洗トイレの機能停止が排泄物処理を滞らせ、
感染症や害虫の発生を引き起こす可能性が指摘されています。

また、トイレの不衛生さから排泄を我慢することで、水分や食品摂取を控え、脱水症状や栄養状態の悪化、
さらには静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)などの健康障害を招く恐れがあるとされています(内閣府, 2016, p.4)。

さらに、特定非営利活動法人日本トイレ研究所「災害時のトイレ衛生に関する意識調査」(2024年11月)によると、
全国1,113人を対象とした調査で「自宅に災害用トイレを備えている人」は全体の21%にとどまり、
準備不足を感じる項目として「トイレ・衛生に関する備え」が52%で最も高い結果となりました。
また、断水時に「避難所のトイレを利用する」と回答した人は24.6%、
「備蓄している災害用トイレを利用する」は17.9%に過ぎませんでした。
さらに、災害用トイレの備蓄経験率は28%、携帯トイレの使用方法の確認は22%、排泄物のごみ出し方法の確認は14%と、
実際の備えや知識の普及が十分とは言えない状況が明らかになっています(日本トイレ研究所, 2024, pp.3-10)。

1-2.現場で直面するトイレ課題の具体例

災害時には、断水や停電によって既存の水洗トイレが使用できなくなる現実が多くの家庭や施設で発生します。
避難所や車中泊では、トイレの数や衛生状態が十分に確保されていないことが多く、
利用者の快適性やプライバシーの確保が課題となります。
特に高層住宅では、エレベーターの停止や水道の供給停止により、トイレ利用が著しく制限されるケースも見られます。

実際、東日本大震災では仮設トイレが被災地の避難所に行き渡るまでに大きな時間差が生じ、
名古屋大学エコトピア科学研究所と日本トイレ研究所の調査によると「3日以内に仮設トイレが届いた自治体」はわずか34%、
最も遅い自治体では65日を要した事例も報告されています。
仮設トイレが到着するまでの間、避難所生活者のために素掘りのトイレが作られるなど、衛生環境は著しく悪化しました。

また、トイレの設置場所が暗い、和式である、段差があるなどの理由で、高齢者や障害者、女性や子どもにとって
使用しにくい状況が多く見られました。
こうした使いづらさから、トイレの使用を控えることで水分や食事の摂取を減らし、健康被害や震災関連死につながった事例もあります。

阪神・淡路大震災や新潟中越地震でも、道路網の分断や交通渋滞によるトイレ設置の遅れ、
し尿の汲み取り体制の不十分さ、トイレ不足による健康被害が報告されています。
新潟中越地震では「トイレが不安で水を飲むことを控えた」とする人が小千谷市で33.3%、川口町で13.8%にのぼりました。

さらに、災害時のトイレ環境が不衛生な場合、臭気の問題や感染症リスクが増大します。
排泄物の適切な処理が行われないことで、避難者の健康被害や生活の質の低下につながる恐れがあります。
これらの課題を解決するためには、災害用トイレや高吸水性シートなどの備蓄・活用、衛生管理の徹底が不可欠です。
今後は、こうした備えと運用体制の強化が、被災者の健康と尊厳を守る上でますます重要となります。


2.災害トイレの種類と共通する課題

災害時には、断水や停電によって既存の水洗トイレが使えなくなるケースが多く、避難所や在宅避難、
車中泊などさまざまな生活環境で「代替トイレ」の確保が不可欠となります。
現場では、仮設トイレや簡易トイレ、マンホールトイレ、既存トイレの応急利用など多様な選択肢が
用意されますが、それぞれに特徴と課題があります。

本章では、災害時に利用されるトイレの主な種類と、それらに共通する衛生・快適性・運用面の課題について、
公的ガイドラインの内容も踏まえて整理します。

2-1.災害トイレの多様な形態

災害時には、既存の水洗トイレが断水や停電で使用できなくなるため、さまざまな代替トイレが活用されます。
内閣府ガイドラインでは、災害用トイレとして「仮設トイレ」「簡易トイレ」「携帯トイレ」
「マンホールトイレ」「既存トイレの応急利用」など複数の形態が示されています。
それぞれのトイレには設置や運用のしやすさ、衛生管理、利用者の快適性などに違いがあり、
現場の状況や被災者の属性に応じた選択が求められます。

2-2.段ボール型簡易トイレの特徴と課題

段ボール型簡易トイレは、軽量で持ち運びやすく、設置も容易なため、初動対応や車中泊、
在宅避難時などで活用されています。
一方で、耐久性や防水性、臭気対策、安定性、プライバシー確保などの面で課題が残ります。
特に排泄物の処理や臭気対策には、高吸水性シートや吸収体の活用が有効です。
吸収シートを組み合わせることで、排泄後の処理性や衛生性が向上し、臭気や感染症リスクの低減にも寄与します。
ガイドラインでも「設置が容易」「高齢者・障害者の使用が容易」といった要望が多い一方、
衛生管理や臭気対策の徹底が不可欠であることが指摘されています。

2-3.既存トイレ活用型のメリットと制約

災害時には、既存の水洗トイレを応急的に活用するケースもあります。
バケツで水を流すなどの工夫が行われますが、断水や下水道の損傷がある場合は利用が制限されます。
また、既存トイレを活用する場合でも、排泄物の適切な処理や衛生管理が十分でないと、
感染症リスクや臭気の問題が発生しやすくなります。
このため、便器内に高吸水性シートや吸収体を設置して排泄物を固め、可燃ごみとして安全に廃棄できるようにする工夫が有効です。

2-4.仮設トイレの設置と運用課題

仮設トイレは避難所や被災地で広く利用されますが、設置までに時間がかかることや、数が不足しやすいことが課題です。
先述の通り、東日本大震災では「3日以内に仮設トイレが届いた自治体」は34%にとどまり、最も遅い自治体では65日を要した事例もありました。
また、仮設トイレの多くが和式であったため、高齢者や障害者、女性や子どもにとって使いにくい状況が多く見られました。
さらに、利用者が集中することで衛生管理が難しくなり、臭気や感染症リスクの増加につながります。
設置場所の暗さや段差、プライバシーの確保、臭気や衛生管理など、運用面での課題も多く指摘されています。

2-5. マンホールトイレの特徴と課題

マンホールトイレは、災害時に下水道のマンホール上に設置することで、排泄物を直接下水道へ流すことができる災害用トイレです。
主な特徴は、排泄物の長期保管が不要で、臭気や衛生リスクを低減できる点にあります。
一方で、設置には下水道の健全性や水道インフラの状況が影響し、断水や下水道損傷時には使用できない場合があります。
また、設置・運用には専門的な知識や資材が必要となり、避難所の規模や立地によっては導入が難しいケースもあります。

2-6.共通する課題:衛生と臭気対策

いずれの災害トイレも、衛生管理と臭気対策が共通の重要課題です。
排泄物の適切な処理が行われない場合、感染症リスクや臭気の拡大、害虫の発生などにつながり、
避難者の健康や生活の質を大きく損なう恐れがあります。
ガイドラインでは、被災者自身による清掃や消毒、市町村による後方支援、衛生用品の備蓄・配布など、
平時からの備えと発災後の徹底した衛生管理の重要性が強調されています。


3.災害トイレに求められる吸収体の条件

災害時のトイレ運用では、排泄物の適切な処理と衛生環境の維持が極めて重要です。
2章で述べたように、段ボール型簡易トイレや既存トイレの応急利用では、
排泄物の固形化や臭気・感染症リスクの低減を目的として、高吸水性シート(吸収体)の活用が現場で広がっています。

ここでは、災害トイレ用吸収体に求められる主な条件について整理します。

3-1.吸収速度:排泄直後の処理性

災害時のトイレでは、排泄後すぐに液体を吸収し、表面をできるだけ早く乾いた状態に保つことが重要です。
吸収速度が遅いと、液体が袋の中で広がってしまい、漏れや臭気の発生につながります。
特に車中泊や避難所のように、すぐに処理できない状況では、吸収速度の速さが衛生管理や快適性の維持に直結します。

3-2.保持力:長時間の漏れ防止

吸収体には、吸収した液体を長時間しっかりと保持する力が求められます。
保持力が十分でない場合、移動や廃棄の際に液体が漏れ出してしまい、衛生面で大きな問題となります。
災害時はすぐにゴミを処理できないケースも多いため、吸収した液体を長く安全に閉じ込めておけることが、
快適性と安全性の両立には欠かせません。

3-3.臭気対策:アンモニア臭の抑制

排泄物の臭気は、避難所や車内での快適な生活環境を大きく損なう要因となります。
特にアンモニア臭は、排泄後の液体が空気に触れることで発生しやすくなります。
そのため、吸収体には液体をしっかり閉じ込めるだけでなく、臭気の発生や拡散を抑える工夫が求められます。
SAPを配合したシートは、液体を素早くゲル化して空気との接触を減らすことで、臭気の拡散を効果的に防ぐことができます。

3-4.廃棄性と安全性

災害時はゴミ処理も制限されるため、吸収体は燃えるゴミとして処理できることが望まれます。
さらに、皮膚刺激や有害成分を含まない安全性も重要です。
長期備蓄を想定する場合、劣化しにくい素材であることも条件に含まれます。
こうした特性は、自治体や企業の防災計画において採用の判断基準となることがあります。

3-5.軽量性と保管性

災害備蓄品として吸収体を保管する際には、軽量でコンパクトに収納できることが重要です。
SAPをシート化した製品は、粉末タイプの凝固剤に比べて扱いやすく、備蓄スペースを効率的に使えます。
さらに、長期保管に耐えられる品質保持も、採用を検討するうえで欠かせないポイントです。


4.SAP(高吸水性樹脂)の特徴とシート化のメリット

SAPは、水分を数百倍吸収し、ゲル化によって液体をしっかり閉じ込める特性を備えています。
この優れた吸水力と保持力により、排泄物の液体部分を効率的に処理できます。
ゲル化した状態では液体が再び流れ出しにくく、移動や廃棄の際の漏れ防止にも効果的です。
さらに、長時間にわたって水分を保持できるため、処理まで時間がかかる災害時でも安心して使用できます。

粉体のシート化(イメージ)

4-1.SAPの基本特性:高い吸水力と保持力

SAPは、水分を数百倍吸収し、ゲル化によって液体をしっかり閉じ込める特性を持っています。
この高い吸水力と保持力により、排泄物の液体部分を効率的に処理できます。
ゲル化した状態では液体が再び流れ出しにくく、移動や廃棄の際の漏れ防止にも効果的です。
さらに、長時間にわたって水分を保持できるため、処理まで時間がかかる災害時でも安心して使用できます。

4-2.シート化による拡散性と処理性の向上

SAPを粉末のまま使用すると、扱いにくく、吸収が偏りやすいという課題があります。
SAPをシートに配合することでこの問題を解決できます。
SAPを配合したシートは、液体を広範囲に拡散しながら吸収できるため、局所的な漏れを防ぎます。
さらに、袋へのセットが容易で、使用後の廃棄も簡単です。
シート構造によって液体が素早く広がることで、吸収速度が向上し、より快適な使用感を実現します。

4-3.軽量性と備蓄性のメリット

災害備蓄品として吸収体を保管する際には、軽量でコンパクトに収納できることが重要です。
SAPを配合したシートは、粉末タイプの凝固剤に比べて扱いやすく、長期保管時の劣化リスクも低いため、
防災計画で採用されるケースが増えています。
さらに、シート状の製品はパッケージングが容易で、限られた備蓄スペースを効率的に活用できる点も大きな利点です。

4-4.凝固剤との違い:快適性への寄与

凝固剤は排泄物を固めることを目的としていますが、臭気の抑制や長時間の保持力には課題があります。
固化しても液体を完全に封じ込めることは難しく、時間の経過とともに臭気が広がりやすく、
処理時に液体が漏れる可能性も残ります。
さらに、凝固剤は吸収速度や拡散性が十分ではなく、排泄直後の処理性や快適性を確保するのが難しい場合があります。

一方、SAPを配合したシートは液体をゲル化し、空気との接触を減らすことで臭気拡散を効果的に防ぎます。
吸収後も形状を安定的に保持できるため、処理時の漏れ懸念を低減し、長時間の保持力を確保します。
こうした違いは、災害時の長期利用や車中泊など、快適性が求められる場面で特に重要です。

5.当社のSAPシートと製造プロセスの特徴

当社では、SAPを配合したシートを、独自のエアレイド法(王子法)で製造しています。
この乾式製法は、水を使わずに繊維や粉体を空気で分散させるため、SAPや機能性粉体の性能を損なわずにシート化できます。

用途に応じて選べる2つのプロセスを用意しています。

キノクロスプロセス:薄物不織布に対応。SAP配合シート「B・SAP」など衛材用途に最適。
TDSプロセス:厚物不織布に対応。最大粉体配合量1,000g/㎡で高機能シートを実現。

オーダーメイド開発にも対応しており、厚み・サイズ・機能性粉体の組み合わせ提案が可能です。
詳しくは以下をご覧ください:

https://www.kinocloth.co.jp/features/absorption/

https://oji-kinocloth.com/powder

高吸収不織布の特設ページ(近日公開予定)

吸液後に膨潤したSAPシート

6.まとめ|災害時の快適性を確保するために

災害時のトイレ問題は、単なる不便さではなく、衛生管理や健康維持に直結する重要な課題です。
特に、排泄物の処理と臭気対策は避難生活の快適性を左右します。
こうした課題を解決するためには、吸収速度・保持力・臭気抑制・廃棄性・軽量性といった性能を備えた吸収体が求められます。

SAP(高吸水性樹脂)は、これらの条件を満たす素材として有力な選択肢です。
高い吸水力と保持力を持ち、シートに配合することで、扱いやすさや備蓄性が向上します。
凝固剤と比べると、臭気の抑制や長時間の保持力で優位性があり、災害時の快適性確保に役立ちます。

さらに、当社では独自のエアレイド法により、SAPや機能性粉体(消臭材等)をシート化する技術を提供しています。
用途に応じて選べる2つのプロセス(キノクロスプロセス/TDSプロセス)とオーダーメイド対応により、
お客様のニーズにマッチした製品をご提案できます。

▼この記事で押さえておきたいポイント

  • 災害時のトイレ問題は、衛生管理と臭気対策が避難生活の快適性を左右する重要な課題。
  • 災害トイレ用の吸収シートには、排泄物を安全に処理するために、吸収速度・保持力・臭気抑制・廃棄性・軽量性が求められる。
  • SAP(高吸水性樹脂)を配合したシートは、吸収力と保持力を備え、臭気の拡散を抑えやすく、軽量で備蓄性にも配慮した構造で、防災用途での利用が想定される。
  • 当社のエアレイド法は、水を使わない乾式製法により、SAPなどの機能性粉体・繊維を配合できるため、安定した性能を持つ吸収シートの提供が可能。

災害対策や防災備蓄を検討されている方は、SAPを活用した吸収シートの性能や構造について、ぜひこちらの記事もご覧ください。

「高吸水性樹脂(SAP)とは?シート化技術で広がる活用方法と用途」

高吸水性樹脂(SAP)とは?シート化技術で広がる活用方法と用途

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参考文献・出典:

  • 内閣府(防災担当)『避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン』平成28年4月
  • 特定非営利活動法人日本トイレ研究所『災害用トイレ・衛生環境に関するアンケート調査』(2012年)
  • 名古屋大学エコトピア科学研究所・日本トイレ研究所「東日本大震災における仮設トイレ到着日数調査」
  • 特定非営利活動法人日本トイレ研究所『災害時のトイレ衛生に関する意識調査』(2024年11月)

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