吸音ブースで騒音対策を体感。なぜ扉がないのに静かに感じるのか
Date 2026.07.17
私たちは、多孔質吸音材「Otocell(オトセル)」を開発しているチームです。
先日、九州労働安全衛生展でOtocellを使用した吸音ブースを展示しました。
来場者の方にブースへ入っていただくと、
「なんで?」
という反応をいただくことが少なくありませんでした。
ブースには扉がありません。
それでも、多くの方が音環境の変化を体感されていました。
今回は、その理由についてご紹介します。
▼この記事の構成
1.九州労働安全衛生展で吸音ブースを製作した理由
2.吸音ブースで騒音対策を体感できる理由
3.吸音ブースとは何か
4.展示会で見られた来場者の反応
5.Otocellはどのような音に効果を発揮するのか
6.まとめ
1.九州労働安全衛生展で吸音ブースを製作した理由
騒音対策や吸音材の説明をするとき、私たちは吸音率や周波数特性などのデータを用いることがあります。
しかし、音環境の変化は数値だけではなかなか伝わりません。
同じ吸音材であっても、実際にその空間へ入ったときに感じる印象は人によって異なります。
そこで今回の九州労働安全衛生展では、Otocellを使用した吸音ブースを設置し、来場者の方に実際に体験していただく展示を行いました。
1-1.騒音対策を体験で伝える展示を目指した
展示会では、吸音材に関心を持って来場される方ばかりではありません。
そのため、製品説明やパネル展示だけではなく、「まず体験してもらうこと」を重視しました。
ブース前では、
「10秒で終わります」
「名刺はいりません」
と呼びかけながら、実際にブースへ入っていただく形を取りました。
騒音対策というと難しく感じられることもありますが、音環境の変化は体験していただくのが最も早いと考えたためです。
吸音材は、見ただけでは効果が分かりにくい素材です。
吸音率や周波数特性などのデータで説明することはできますが、音環境の変化は数字だけでは伝わりにくい面があります。
そこで今回は、製品説明に入る前に、来場者の方に実際にブースへ入っていただき、外側と内側の聞こえ方を比べていただく展示としました。
音を聞き比べることで、吸音材が音環境へ与える影響を直感的に体感していただくことを目指しました。
1-2.ハイプルエースとOtocellを組み合わせた吸音ブース
今回の吸音ブースは、王子グループの王子インターパック製の強化段ボール「ハイプルエース」をベースに、内側へOtocellを施工した構造としました。
使用したのは難燃タイプのOtocell「CAGaN20」です。
ブースは約3人が入れるサイズで、内部に入って会話をしたり、周囲の音を聞き比べたりできるようにしました。
完全な防音室ではなく、来場者が気軽に出入りできる開放型の構造としています。

2. 吸音ブースで騒音対策を体感できる理由
展示会で最も多かった反応は、
「なんで?」
という言葉でした。
ブースには扉がありません。
完全な防音室でもありません。
それにもかかわらず、多くの方が音環境の違いを感じていました。
その理由は、音を遮断しているからではなく、音の反射や響き方を変えているためです。
2-1.なぜ扉がないブースでも静かに感じるのか
一般的に「静かな空間」というと、防音室のように音を閉じ込める構造をイメージする方が多いかもしれません。
しかし今回の吸音ブースは、出入口が開放された構造です。
外の音が完全に聞こえなくなるわけではありません。
それでも多くの来場者が音の違いを感じたのは、ブース内部に施工したOtocellが音の反射を抑えていたためだと考えています。

展示会場では、人の話し声やアナウンス、周辺ブースの機械音など、さまざまな音が絶えず発生しています。
その音が壁や天井で何度も反射すると、人は実際の音量以上に騒がしく感じます。
一方、吸音材がある空間では余分な反射音が減るため、耳に届く音の印象が変わります。
今回のブースでも、音が消えたというより、「響き方が変わった」と感じていただけたのではないかと思います。
2-2.防音と吸音の違いを理解すると効果がわかる
展示会では、
「防音室ではないのですか?」
という質問もいただきました。
防音と吸音は似ているようで考え方が異なります。
防音は、音を外へ漏らさない、あるいは外から入れないようにする技術です。
一方、吸音は音の反射を抑え、響きや残響を少なくする技術です。
今回の吸音ブースは後者にあたります。
音を完全に遮断しているわけではありません。
しかし、反射音を抑えることで音のまとわりつきや耳障りな響きを少なくし、会話しやすい空間をつくることができます。
つまり今回のブースは、音を消すための設備ではなく、音環境を整えるための設備だったと言えます。
2-3.dBだけでは測れない体感上の静けさとは
騒音対策というと、騒音計の数値やdB(デシベル)に注目しがちです。
もちろん数値は重要です。しかし、人が感じる快適性は数値だけでは決まりません。
今回の展示会でも、
「なんで?」
と笑いながら驚かれる方がいる一方で、無言のまま周囲の音を聞き比べる方もいました。
これは人が音量だけでなく、
- 響き
- 残響
- 聞き取りやすさ
- 耳への刺激
といった要素を含めて音環境を評価しているためだと思います。
私たち自身も工場で働いていると、空調やモーター、ボイラーの音が当たり前になってしまいます。
しかし設備が停止すると、
「こんなに音がしていたのか」
と改めて気付くことがあります。
今回の吸音ブースで来場者の方々が感じた変化も、それに近いものだったのかもしれません。
音量そのものが大きく変わらなくても、人は音環境の違いをしっかり感じ取っているのです。
3. 吸音ブースとは何か
ここまで、扉がない吸音ブースでも音環境の変化を体感できる理由についてご紹介してきました。
では、吸音ブースとはどのような設備なのでしょうか。
ここでは、吸音ブースの基本的な考え方についてご紹介します。
3-1.音環境を整えるための設備
吸音ブースは、音を完全に遮断するための設備ではありません。
目的は、空間内で発生する反射音や残響を抑え、音環境を整えることです。
例えば工場やオフィスでは、設備音や周囲の会話が多少聞こえていても、会話しやすいことや集中しやすいことが求められる場面があります。
吸音ブースは、そのような環境づくりを支援する設備の一つです。
3-2.開放型でも効果を発揮する音環境の考え方
騒音対策というと、音を遮ることばかりが注目されがちです。
しかし実際には、すべての音をなくしたいわけではない場面も多くあります。
例えば工場やオフィスでは、設備音や周囲の音が多少聞こえていても、
会話しやすいことや集中しやすいことの方が重要な場合があります。
そのような環境では、音を遮断するのではなく、不要な反射音を減らすことで快適性を高めるという考え方が有効です。
吸音ブースは、そのための空間づくりを目的とした設備です。
開放型の構造であっても、音の反射を抑えることで、聞こえ方や空間の印象を変えることができます。
3-3.吸音材が果たす役割
吸音ブースの性能を左右する重要な要素が吸音材です。
吸音材は、音のエネルギーを材料内部で減衰させることで、壁や天井で発生する反射音を抑える役割を持っています。
空間内で音が何度も反射すると、実際の音量以上に騒がしく感じたり、会話が聞き取りにくくなったりすることがあります。
一方、吸音材が適切に配置された空間では、余分な反射音が減り、音の輪郭が整理されます。
その結果、会話がしやすくなったり、落ち着いた音環境になったりします。
吸音ブースは、こうした吸音材の働きを活用しながら、人が快適に過ごせる音環境をつくるための設備なのです。
4. 展示会で見られた来場者の反応
今回の展示では、吸音ブースの仕組みそのものだけでなく、来場者の方々の反応も非常に印象的でした。
吸音材や騒音対策に詳しい方もいれば、たまたまブースの前を通りかかった方もいます。
しかし、多くの方がブースへ入った瞬間に音環境の変化に気付き、それぞれの形で驚きや興味を示してくださいました。
4-1.音環境の変化に驚く来場者が多かった
吸音ブースに入った多くの来場者の方は、まず音環境の変化に気付かれていました。
大きな声で驚かれる方もいれば、何も話さず周囲の音を確かめる方もいました。
中にはブースの外へ出たり入ったりしながら、聞こえ方の違いを確かめる方も見られました。
技術的な説明をする前に、音環境の変化そのものへ興味を持っていただけたことが印象に残っています。

4-2.一度体験した方が仲間を連れて戻ってきた
今回の展示で特に印象に残ったのは、一度体験された方が仲間を連れて戻ってこられたことです。
実際に、
「ちょっとこれ体験してみて」
とグループの方を案内される場面が何度もありました。
中には、別々に展示を見学していた仲間の方々を集め、最後に複数名で再びブースへ来られた方もいました。
私たちが説明する前に、体験した方が別の方へ紹介してくださる。
これは、音環境の違いが言葉だけではなく、体験として伝わっていたことを示す反応だったと感じています。
4-3. 2日間で200名以上が体験した吸音ブース
会期中には200名を超える方に吸音ブースを体験していただきました。
来場者の職種もさまざまで、騒音対策を検討されている方だけでなく、
建築関係者や設備関連の方など、多くの方に興味を持っていただきました。
その中で共通していたのは、ブースの構造よりも先に、
「聞こえ方の違い」
へ反応される方が多かったことです。
今回改めて感じたのは、吸音材の効果は数値やグラフだけでなく、
実際に体験していただくことで初めて伝わる部分があるということでした。
5. Otocellはどのような音に効果を発揮するのか
展示会では、
「パルプが音を吸うのですか?」
「Otocellはどのような音に効果があるのですか?」
といった質問を多くいただきました。
吸音材にはそれぞれ得意な音域があります。
ここでは、今回の展示で使用したOtocellの特徴についてご紹介します。
5-1.中〜高音域の吸音が得意な理由
Otocellは、多孔質構造を持つパルプ系吸音材です。
多孔質吸音材は、音が材料内部へ入り込み、複雑な空隙の中を伝わることで音のエネルギーを減衰させます。
そのため、人の会話やアナウンス音、電子音などの中〜高音域に対して効果を発揮しやすいことが特徴です。
今回の展示会でも、多くの来場者が最初に違いを感じたのは、会話音や周囲のざわつきに対してでした。
Otocellが持つ中〜高音域の吸音特性は、今回のような展示会環境でも体感しやすい特徴の一つです。
5-2. 展示会場で音環境の変化を体感しやすかった理由
展示会場にはさまざまな音があります。
来場者同士の会話、商談の声、アナウンス、周辺ブースの説明音などです。
これらの音は、それぞれの音量が大きくなくても、重なり合いながら壁や天井で反射することで独特の騒がしさを生み出します。
今回の吸音ブースは、そうした音を完全に遮断していたわけではありません。
それでも、
「音が違う」
「なんとなく静かに感じる」
という反応が多かったのは、会話音やアナウンス音などの反射が抑えられたためではないかと考えています。
展示会場のような環境は、Otocellが得意とする中〜高音域の変化を体感しやすい場面の一つでした。
5-3.モーター騒音と電子タイマーで行った体験デモ
今回の展示では、吸音ブース以外にも吸音効果を体感していただくためのデモを実施しました。
一つはモーター騒音を利用した吸音ボックスのデモです。
吸音ボックスには、吸音ブースと同じく難燃タイプのOtocell「CAGaN20(20mm品)」を使用しました。
ボックスをモーターへ被せることで、音の聞こえ方がどのように変化するかを体験していただきました。

もう一つは、電子タイマーを使用した比較デモです。
このデモでは黒い箱を二つ用意し、一方にはOtocellを施工し、もう一方には施工していない状態で電子タイマーを入れて比較しました。
吸音材のない箱では、ふたを閉めても電子音が外まで聞こえます。
一方、Otocellを施工した箱では、ふたを閉じると音が大きく抑えられます。
説明を始める際には、
「種も仕掛けもありますが……」
とお話ししながらデモを行っていましたが、多くの方が予想以上の違いに驚かれていました。
吸音材の効果はグラフや数値で説明することもできます。
しかし、実際に聞き比べていただくことで、反射音が抑えられると聞こえ方が変化することを、より直感的に理解していただけます。
今回の展示では、吸音ブースだけでなく、こうした簡易デモも活用することで、吸音の仕組みを体感していただくことができました。

今回展示した吸音ブースで使用したOtocellについては、製品紹介ページで詳しく紹介しています。
6.まとめ
今回の九州労働安全衛生展では、Otocellを使用した吸音ブースを展示し、多くの方に音環境の変化を体験していただきました。
今回改めて感じたのは、人は音量だけでなく、響き方や聞き取りやすさなども含めて音環境を評価しているということです。
騒音対策というと音を遮ることに目が向きがちですが、反射音や残響を抑えて音環境を整えることも重要な方法の一つです。
この記事が、吸音と防音の違いや、吸音材の役割を考えるきっかけになれば幸いです。